ネットを見ているとSiC SBDの評判がよいようである。 

     SiC SBD とはSiC ショットキーバリアダイオード、
     長く書けばシリコンカーバイド・ショットキーバリアダイオード。

     整流素子をSiC SBDに変えるとオーディオ機器の音がよくなるという。
     ある方は「もうプリやメインアンプに整流管を使う必要はない」とまでおっしゃっている。
                 
     オーディオ機器の整流にSiC SBDを用いると音質が良くなると聞いて、
     では励磁電源に用いたらどうなるのだろうか気になっていたので実験してみた。

     用いたSiC SBDは秋月電子で扱っているパンジット・PCDP05120G1(台湾製)で     
     1個・200円の品である。

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      使用した回路は当ブログの「91 励磁電源・・・ささやかなまとめ」の中の
      「2 セレンを用いた励磁電源」の回路と同じ(使用部品は多少異なる)                          
     

     (1) SiC SBDを4個組み合わせてブリッジ整流にした時。
                               
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        音は低域は締まっているが量感はあまりない。
        中域は明瞭であるが硬くはない。
        高域はのびや繊細さが不足ぎみでツィータを足したくなる。

        高域に不満はあるが全体にレンジもほどよく広くフィールド・スピーカーの良さは
        味わえる。

     (2) 一般的なブリッジダイオードを用いた時。


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        音は残念ながら奥行きが感じられず平面的、荒さがありうるさい感じになる。
      
      
     (3) SiC SBDを2個だけ使って両波整流とした時

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        音はブリッジ整流とは明らかに異なる音である。
           低域から中域にかけてブリッジほど明瞭ではないがその代わりたっぷりとした
        量感がある。
           高域は良く伸びており繊細さもあるが水銀整流管83には及ばない。
            全体に明るく華やかであるが決してうるさくはない。


     (4) ごく一般的なショットキーバリアダイオードを2個使って両波整流とした時。

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        音は周波数レンジが狭く高域の繊細さはない。
        音の響く空間が狭くさらに音の分離が悪く団子状の感じになる。


      以上の実験からSiC SBDを2個使った両波整流が一番よかったが強いて使ってみたいと
      思うほどではなかった。




      番外編

      セレン整流器を使用した時にチョークコイルとコンデンサが各1個の平滑回路1段の
      励磁電源でも実用になることは実験済みであったが、もしチョークコイルの
      インダクタンスを変えてみたらどうなるか気になったので実験してみた。

      整流素子は
SiC SBD の他にシーメンスのセレン整流器も使用してみた。
      コンデンサーは20μFではごくかすかにハム音が聞こえるが40μF以上であれば
      ハム音はほぼ聞こえなくなった。

     1 SiC SBD とシーメンスのセレン整流器をいずれも両波整流として使用。

       実験1 インダクタンスを大きくしたとき。

           最初に使用したチョークコイルはタンゴCH12-200Dという
           インダクタンスが12Hのチョークインプット用のチョークである。
           音は以前の実験と同じで
セレン整流器だけでなくSiC SBD でも
           高域の伸びや繊細さが不足する音であった。
           
           次にインダクタンスが20Hのチョークインプット用の
           チョークコイル・タンゴCH20-150Dに交換。

         結果はインダクタンスが大きくなっても音がほとんど変わりがなかった。
         インダクタンスを大きくしてもあまり意味がなさそうである。

       実験2 インダクタンスを小さくしたとき。

                 インダクタンスが5HのタムラMC-5H(5H・200mA)という
           チョークインプット
チョークコイルがあったのであまり
           期待もせず使ってみた。

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シーメンス・セレン整流器での両波整流
                   写真上部に半分ほど写っているのが
タムラMC-5H

         結果は予想外であった。
 
             SiC SBD とセレン整流器共に
         周波数レンジが広く中・低域はたっぷりとした響きで83の幾分やせ気味
         な音とは異なる。
         高域は83に劣らず伸びと繊細さがある。
         83がダントツの音と思っていたが今回の実験の結果でSiC SBDとセレンが
         83の代わりに
使えそうである。
         83は音が出るまで約2分ほど待たなければならなかったが、
         
SiC SBDとセレン整流器を使えばそんなこともないのは利点である。

       実験3 手持ちのインダクタンスが5Hあたりのチョークを探したところ
           タムラA-396、LUXの5BC5とUTCのS-29(6H)が
           あったので交換してみた。
           
                タムラ A-396(5H・200mA)はMCー5Hに近いが少し
             スケールが小さくなる感じがする。
            LUX・5BC5は音が柔らかく明瞭度が落ちる。
            UTC・S-29は音が少し細くなり中低域の量感が足りない。
         
         インダクタンスが5Hのチョークコイルであれば何でも良いわけでは
         なさそうである。
         タムラのチョークインプット用のMC-5Hがベストであった。
              タムラのA-396も代替品として使えそうである。
     
     2  SiC SBD とシーメンスのセレン整流器をいずれもブリッジ整流で使用。

        結果はインダクタンスを5Hにした時の
両波整流と同じで良い音がした。
        インダクタンスが小さい時は両波整流でもブリッジ整流でも変わりはなく
        よい音が得られる。

       3 最初に使っていた一般的なショットキーバリアダイオードによる両波整流と
       ブリッジダイオードを使ってみたところ思ったほど悪くない。
       しかし
 SiC SBD の方がワイドレンジかつ音がなめらかで明らかに良い音である。
       ショットキーバリアダイオードやブリッジダイオードを使用したときは
       わずかに周波数レンジが
狭く音が細めで荒さがある。

       励磁電源をとりあえず使用してみたいときなどは一般的な整流素子で
       試みるのもよいであろう。
       よい音で楽しみたくなったら
SiC SBDに交換することは容易である。  

      
   結論                     

     励磁電源に用いるチョークコイルはインダクタンスが5H位の小さい方が良い結果が
     得られる。しかしチョークコイルは5Hくらいなら何でも良い訳ではなく選ぶ必要がある。
     今回はチョークインプット用のチョークコイルで良い結果が得られたが他の可能性が
     有るかもしれない。

     タムラMC-5H(5Hのチョークインプット・チョーク)、コンデンサ40μF使用
     の時、
SiC SBD とシーメンスのセレン整流器は両波整流でもブリッジ整流でも
     よい音が得られたが、
     強いていえばボーカルなどで SiC SBDはサ行が少し耳につく、セレンの方はそのあたりが   
     ソフトで全体の印象はセレンの方が落ち着いた感じの音である。

     ポップス・ジャズ系の音楽には多少メリハリのある音のするSiC SBDの方が
     向きそうである。
     当方はクラシックがメインなので断然セレン整流器の方が好みである。
       なお 
SiC SBD は発熱しないので放熱の必要はないがセレンはシャーシーに固定して
     軽く放熱した方が良い。
     

 
      今回の実験では蛇足のつもりで期待もせずに行った最後の実験で大収穫が得られた。
      チョークコイルのインダクタンスは大きい方が電圧変化の少ない直流が得られるので
      良いと思っていたら、マサカヤーであった。


      さて今回はチョークコイルの違いで音が結構異なった。
      励磁電源を制作する場合はあらかじめ5~10Hのチョークコイルの音を
      確かめておく必要がある。

      励磁電源では音の変化する要素がまだまだあるだろうから他の方の情報をお待ちしたい。



                      終
 

    追記 (11月12日・土)

      上記の実験ではチョークコイルのインダクタンスを5Hにしたところで終わった。
      その後インダクタンスを更に小さくしてみた。

      タムラやラックスのチョークコイルにはコイルが2分割されていてこれを並列接続すれば
      インダクタンスを4分の1の小さな値にできる。

      そこで手持ちの下記のチョークコイルを並列接続にしてみた。
      タムラA4004はインダクタンスが2.5Hに、 
      タムラA4003はインダクタンスが1.25Hになりこれで実験した。

      結果は音が下記のように変わった。
       2.5Hの時は低音部は少し弱くなるが全帯域でクリアーな音になる。
       1.25Hの時は更に低域が弱くなり高域がうるさく感じる。      

      以上の実験から結論として、一般的には低音から高音にかけてバランスの良い5Hの時が    
      ベストのようである。しかし小編成や声楽ではクリアーな音のする2.5Hも捨てがたく    
      こちらも選択肢として残しておきたい。

      なお回路はチョークインプット式であるがコンデンサーインプット用のチョークコイルも  
      使っていて特に問題を感じないがあくまでも自己責任で!
      バンド型の小型のチョークコイル等は低域が貧弱になるので避けた方がよさそうである。

      以上は当方のシステムでの話であって他のシステムでも同じ結果が得られかは
      保証できない。
      励磁電源を製作する際はバラックテストで音を確認してからが望ましい。


                                    以上